幸村誠 「ヴィンランド・サガ」 10巻

ヴィンランド・サガ(10) (アフタヌーンKC)

ヴィンランド・サガ(10) (アフタヌーンKC)

この作者はいつも「あとがき」が素敵で読むのが楽しみ。力が抜けている文章でいいなー。
本編は引き続き奴隷編。正直以前に比べて戦いがほっとんどないので、見た目的な展開は少ないけれど、内面的には大きな変化も起こり、次巻に期待。始まったときはまさか10巻まで続くとは思ってなかった。

木村紺 「神戸在住」 8巻

神戸在住(8) (アフタヌーンKC)

神戸在住(8) (アフタヌーンKC)

7巻での不安定さがなくなり、以前のスタンスが戻る。とっても安心した。
卒業制作の話とか好き。卒業制作物のあまりのリアルさに、モデルがあるとしか思えないのだけど、この漫画はどのぐらいがフィクションなんだろう。

美内すずえ 「ガラスの仮面」 21巻

きみはおれがこわくないのか?

こわいです

じゃあなぜ隣にいる?

慣れましたから

ガラスの仮面 (第21巻) (白泉社文庫)

ガラスの仮面 (第21巻) (白泉社文庫)


引用した部分は決め台詞みたいなものではなくさりげないシーンなんだけど、僕は好きだった。やっと少女漫画っぽいですね!少女漫画=恋愛という僕の狭いイメージもよろしくないけど。
マヤと真澄のやりとり、それから海慶先生のエピソードは好きだったのだけど、演劇な面は僕的には不満が多かった。風・火・水・土をマヤと亜弓の2人して「そうかこれだわ・・・!」ってしょっちゅう言うんだけど、「そうかなあ?」ってひねくれた目で見ることしかできなかった。

あだち充 「H2」 8巻

H2 (8) (少年サンデーコミックス)

H2 (8) (少年サンデーコミックス)

古賀さんかわいいなー。
ところで「H2」というタイトルは比呂と英樹の頭文字からってことなんでしょうか。随分わかりにくいタイトルのような・・・

伊藤計劃 「虐殺器官」

 CEEP、という言葉がある。幼年兵遭遇交戦可能性。
 そのままだ。初潮も来ていない女の子と撃ち合いになる可能性だ。
 その子の頭を、肋骨の浮き出た満足に乳房もない胸を、小銃弾でずだずだにしなければならない可能性だ。トレーサビリティ、エンカウンタビリティ。サーチャビリティ。ビリティ。ビリティ。ポシビリティ。世界にはむかつく可能性が多すぎる。そして実際、その言葉が使われた場合の可能性は百パーであって、そこではもはや「ビリティ」の意味など消失している。ビリティは詐欺師の言葉だ。ビリティは道化師の言葉だ。
 ことばには臭いがない。
 映像にも。衛星画像にも。
そのことにぼくはむかつきを覚える。
 脂肪が燃え、筋肉が縮みゆくあの臭い。髪の毛のタンパク質が灰になるときに出す臭気。人間の焼けるあの臭い。自分はそれを知っている。馴染み深いとは言わないが、この仕事を長年続けるうちに、幾度となく嗅がざるを得なかった臭気。
 火薬の燃える臭い。民兵たちが古いゴムタイヤを狼煙に燃やす臭い。
 戦場の臭い。
衛星の映像を見ていて、ぼくの胸に湧き起こってくるのは不快感――胸糞悪い。なにが胸糞悪いって、それは映像のグロテスクさではなく、むしろその逆――こうして映像で見ているぶんには、人間の丸焼きだろうと内臓だろうとたっぷりの血だろうと、きれいに脱臭されていて、ぜんぜん胸糞悪くならないから――その胸糞悪くならなさが最高に胸糞悪い。屍体を冷たく見下ろす衛星のレンズ群は、凍りつく真空の星空にあって、地上の臭気とは無縁の、とりすました残酷な神の超越性を真似ている。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

★★★★★★☆☆☆☆

伊藤計劃のデビュー作。読み始めの印象はまんま「メタルギアソリッド」。
SFではあるけれども、とっても近い現実でほんとにありそうな世界だった。未来の生活や軍隊の描写はとても緻密だったけど、その分物語が弱いかな、と自分は感じたので★6。SFなりファンタジーなり残酷なり、何かのベクトルがとても強い物の方が自分は好きらしい。そう考えると本作はとてもバランスが良かった。

「NOVA 2」

3月某日 曇り
 新宿で拾ったビラを日本人に見せると、誰もが口ごもって目を逸らす。
 カナコはかなり率直なほうだが、外でその話はしないほうがいいわよ、とそっけなく言った。それにしても、日本の友人たちは私の質問に対してまるで一緒に練習していたみたいに同じような反応をし(顔に不透明な膜が張ったようになる)、そこから先に進もうとするとやんわりと言葉を濁す。そのラインはいつも同じところにあり、私には見えないラインが彼らには見えるらしい。「ノレンに腕押し」な気分になるが、かつて読んだマクミランの『世界比較文化事典』の一節が今も立派に通用すると知ってなぜか笑い出したくなってしまうのだ。それはこうだ……今も暗誦できる。「…日本語は複雑で微妙なニュアンスをもち、丁寧さの度合いによって少なくとも4段階の言い換えが可能。…コミュニケーションには間接的な表現や言葉にならないニュアンスが多く含まれているが、日本人同士はそれを完璧に理解する。…日本人は絶妙にコントロールされた集団的思考を持つ国民なのである」
 日本にはみんなを黙らせるとても便利な言葉があるわ、とカナコは冷ややかに言っていた。
 その魔法の言葉は「自粛」だそうである。

神林長平「かくも無数の悲鳴」
小路幸也レンズマンの子供」
法月綸太郎「バベルの牢獄」
倉田タカシ「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」
恩田陸「東京の日記」
田辺青蛙「てのひら宇宙譚」
曽根圭介「衝突」
東浩紀クリュセの魚」
新城カズマ「マトリカレント」
津原泰水「五色の舟」
宮部みゆき「聖痕」
西崎憲「行列」

★★★★★★★☆☆☆

恩田陸「東京の日記」がダントツでマイベスト。とにかくタイムリーすぎるので早く読むべき。とても「震災」前に書かれたとは思えないほど奇妙で不気味な合致であり、そこに書かれた東京の人たち、日本人の行動がよく描かれている。そして僕たちはすでに現実でそれを見てしまっているので、本当の日記みたいに読んだ。
長い時間をかけて読んだので正直前半部は印象が薄い。「かくも無数の悲鳴」は面白かったな。
「NOVA 1」と同様に、ある程度長めの作品が後ろの方に配されているのが少し苦手。前半のやつわからなくなっちゃう。

諸星大二郎 「グリムのような物語 スノウホワイト」

スノウホワイト グリムのような物語

スノウホワイト グリムのような物語

★★★★★★☆☆☆☆

グリム童話の話を変容させリミックスさせた短編集。キーワードは理不尽。
グリム童話は実は残酷な話が多い、というのは有名だと思うが、絵にするとなんとまあ気持ち悪いこと。w「奇妙なおよばれ」とか最高に気持ち悪い。ソーセージが服を着て歩きまわっているだけで嫌なのに、同じ話に食べ物としても登場する。
全体的にスタートはいかにもグリム童話、という感じのヨーロッパ的な村でスタートすることが多いのだけど、いつの間にかインターホンがあったりロボットが登場したりと作者が好き勝手現代的に組み替えていたり、原作をさらに混ぜて複雑にしてみたりと、その変容は植物的だ。