吾妻ひでお 「地を這う魚 ひでおの青春日記」

地を這う魚 ひでおの青春日記 (角川文庫 あ 9-3)

地を這う魚 ひでおの青春日記 (角川文庫 あ 9-3)

★★★★★★★☆☆☆

以前から読みたいなー、どうしようかなー、と思っていたのだけど、書店でたまたま文庫化したのを見つけてすぐ買ってきた。
吾妻ひでおの日記シリーズは「失踪日記」「うつうつひでお日記」に続き3冊目。前2作に比べると幻想色がとても強い。ストーリー自体は全くもって現実の話なのだけど、主人公(著者本人)と女の子以外は知り合いも通行人も動物だったりロボットだったりよくわからないものだったりと異形物として描かれ、さらにそれとは別に変な物(主に魚)がコマを埋め尽くす。
ストーリーは作者の若い頃の話で、とにかく金がなく、漫画家のプロを目指す仲間たちと一緒に安アパートに暮らし、アシスタントをしている漫画の先生には給料を前借りし、風呂には数ヶ月入らないという極貧生活。将来に対する不安が満ち満ちているだろうから、描く人によってはひどく陰鬱な雰囲気になってもよさそうなものだけれど、前述の異形物たちが無数に入り乱れるコマはなんとも奇妙で暗さを感じさせない。
とにかく読みやすくて、1時間ちょっとで読み終わった。読んでいる最中は楽しくてふんふんと読んでいたのだけど、読み終わったらかなりの寂寥感に襲われた。将来に対する不安が乗り移ったのか、今「お金が無い」と嘆いている自分が情けなくなるぐらいの生活を目の当たりにしてしまったせいかはわからないが、コマを埋め尽くす吾妻ひでおの描くコミカルな異形物の魔法が解けてしまってそのように感じたのかもしれない。