唐沢なをき 「カスミ伝(全)」

前回までのあらすじ
サーテ皆様聞いてもくんねい、ギャグの基本は他人の失敗、道を歩いてお他人様が、落ちてるバナナの皮をふんづけ、すべって転んで鼻を打ったでおまんま食べれる結構な商売と、思ってなったがとんだ間違い、世の中そんなに甘くはないのよ、そこいら掘ってもネタとお金は、そうやたらに出てきはしないよ。ない知恵しぼってネームを作れば、あちらにつまづきこちらに転んで、木の根岩角行く手を遮り、泣きも笑いもさっちもいかずに、白紙ながめて七転八倒、つらいことだよ苦しいことだよ、骨がおれるよ頭が痛いよ、頭が痛めば病気が起こるよ、病気が重けりゃ息が絶えるよ、万事休すよ死んでしまうよ、往生きわまり寂滅したすよ、人生終わるよ命がないよ。それでも読者の皆様の、あつい声援背中に受けて、なんとかかんとかここまで来たよ、感謝感激雨アラレ+大津波。ここまで来たならこの際ついでに、この単行本バカスカ売って、酒池肉林の栄耀栄華を、三日でいいからやってみたいよ、三日やったら一日休んで、そのあと十年続けてみたいよ、チャカポコチャカポコスチャラカポクポク。………さて閑話休題、東大落第、プラモはバンダイ、なんだっていーんだい。皆様御贔屓カスミ伝、回をかさねて一万回、それつらつら考えるに往時茫々とすべて夢に似たり。生きては帰る世の中に本来仮の池水火風、空より出でてまた空に、帰る道さえ迷いぬる、魂魄またも立ち戻り、歩むともなくよろよろと、佇むともなくよたよたと、風のまにまにうなずくは、げにのざらしのあな目の薄。陰火ちらちら立ち上ぼり、妖風町に吹きすさび、天地万象騒然として仰げば星の影暗し。嗚呼、花の都は血の都、四海縦横、天下紛乱、凄惨きわまる呪詛の声わき上がる帝都の闇を縫って駆け抜ける影ひとつ、おお、そは何者ならん、兄さよく聞け姉さも聞きゃれ、これぞ余人にあらずして、本編のヒロインくのいちカスミであります!! 色と恋との薄紫の、花の女子高二年生。小野小町か楊貴妃か、クレオパトラの再来か、常盤御前の袈裟御前、お昼のご膳はもうすんだ、飛騨山中で忍術修行、厳寒酷暑の嫌いなく、千辛万苦をなめつくし、雨にうたれ風にこごえ、あるいは野に伏し山に伏し、やけのやんぱちふたち連れ、さずかりうけたる忍術極意。変化の術は二百と七つ、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前、イチジク、ニンジン、サンショにシイタケ、ゴボウにムクロジ、長芋、ハツタケ、クワイにトーガン、赤いがシンシャに椰子アブラ、テレメンテイカ、マンテイカ。さて効能は金瘡に切傷、ヨウ、チョウ、ひび、しもやけ、あかぎれの一切。田虫ガンガサ、ヨウバイソウ。出痔・イボ痔・脱腸・脱肛・ケイカン・痔瘻にまで効くんだよ。この忍術の訓練をする時は、四方に鏡を立てて下に金網を敷く。そのうちへと女子高生を追い込む。女子高生は四方にうつる己が姿にウットリし、たらりたらりと総身よりアブラアセを流す。「ああ、ちょっと暑いわ」とセーラー服の上着をとり、スカートを脱ぎすて、シャツを脱いだそのあとは、ブラのホックに手がかかり、スルリとおちたそのあげくパンツに当然かかろうか、サーテどうしたものかという案配だが、ここでこれ以上申し上げれば猥褻にあたるのおそれ此有ソウロウにつき、続きは本編のなかで見ておくれよお立ち会い。習い覚えた手練の技で、ガマに姿をかえネズミに形を変じ、イタチになりテンになりワニになりコアラになりオウシュウフクロモモンガになる。東に病気の子供あれば行って看病してやり、西につかれた母あれば行ってその稲の束を負い、南に締切抱えたマンガ家あれば行ってのびるもんだからこわがらなくてもいいと言い、北にケンカや訴訟があればつまらないからやめろと言い、ひでりの時はおろおろ歩き、寒さの夏は下着をもう一枚重ねてはくよ。さらには雲を呼び風を呼び雨を呼び雷を呼び、芸者とタイコを呼んでドンチャンさわぎ、あんなドガジャガの好きなやつぁないね。スリーサイズはヒ・ミ・ツ、趣味はショッピングと詩を書くこと、ニガ手な科目は数学と物理、好きな男性のタイプは優しくて思いやりのあるスポーツマン、今年の夏は沖縄でウインドサーフィンにチャレンジしたいってえ花も恥じらう乙女だよ。もってけドロボー、人殺しィっ。ハーテヤテヤイササカリンリン好かれちゃドンドン青菜の性ならしおれてこい、芸者の性なら褄とってこい、お客の性なら毎晩こい、一日会わなきゃお父っさんご心配お母っさんもご心配、ともにわたしもイソご心配。さて時はいつなんめり元亀天正のむかし、悪逆非道の根来忍群城下に跳梁し、善男善女の涙の声夕日にこだまする日であります。天狗の所為か魔の業か、この世には神も仏もないものか。火筒のひびきいま絶えて、霧にふけゆく戦線の、荒野を遠く流れ来る、歌声悲し君恋し、万感胸にせまり来て、しばし涙で月を見る。その時早くかの時遅く、光の速さで影が飛ぶ。のさばる悪をなんとする、天の裁きを待ってはおれぬ、クレクレクレッぺくりゃりんこー、御法度六法非理法権天、くのいちカスミがお相手いたす。破邪の剣をば縦横無尽、真っ向唐竹割り車切り、アラレ賽の目千六本、ばったばったとなぎ倒す、待ってましたァ、大統領、これにはさすがの根来衆も、たまげた駒下駄日和下駄、驚き桃の木山椒の木、ブリキにタヌキに蓄音器。風をくらって西へ飛ぶ。歓呼の声におくられて、ひとり去りゆくくのいちカスミ。忍びのおきてはつらいもの、一週間に一度の外出も、当番上忍の注意では、大酒飲むな乱暴すな、左側通行怠るな、なるたけ男に近寄るな。ひそかな恋も胸に秘め、言わず語らず目で知らす。恋は思惑の外とやら、どこがよいのと言うその人に、見せてやりたい蓼の虫、浮気性ではないかいな。いえいえそうではありませぬ、ふたりの恋は清かった、神様だけがご存じよ。春や春、春らんまんの花の色、飛騨の里でのローマンス。鹿ぞ鳴くなる山奥の、四季おりおりの花やかに、春は桜に八重山吹、夏はアヤメにカキツバタ、秋は大菊萩桔梗、冬は水仙玉椿。春浮気、夏は陽気で秋ふさぎ、冬は陰気で暮れはまごつき、芝刈り縄ないワラジをつくり、親の手を助け弟を世話し、兄弟仲良く孝行つくす、手本は二宮金次郎、ケンカよくない麦まくよろし。……ちょいと目を離していたスキに根来の魔の手は学園にせまり、突然せまる刺客部隊。今や孤立無援の敵陣深く、カスミは大ピンチをばむかえんとするのでありました。さあ、さあさあさあさあさあさあ果たしてわれらがヒロインくのいちカスミ、この必殺の包囲陣を無事突破して、首尾よく根来忍者のアジトを見つけだしてこれを壊滅させることができるでありましょうや?地球壊滅の時限爆弾は刻一刻と時をきざみ、地下室に水責めとなっている実の兄、吉右衛門の命は風前の灯。幸うすき美少女エリカはRHマイナスの血清を待っている。頼みの明智探偵と小林少年は謎の洞窟で足もとにせまりくるムカデ、サソリ、ウジ、ゴカイ、でんでん虫の大群をどうかわすのか?味太郎は究極ソースの謎をとき、ヤキソバ勝負に勝てるのか?そしてまた事件の背後で不気味に暗躍する怪人物・電気伯爵とはそもこれ何者ぞ? 走れカスミ、急げカスミ。飛騨にゃ自動車四台ある、二台は故障で動かない、一台の自動車にゃ乗り遅れ、一台の自動車は満員で、修行で鍛えたその足で、凍る大地を踏みしめて、急げやカスミ、やれ急げ。東に落ちるは善の影、西に消ゆるは悪の牙、菊はさかえる葵は枯れる、鞍馬天狗は二刀流、無明地獄に燃え上がる女ごころがなぜ悲し。どよめく反響、うずまく絶賛、熱い血潮が土砂降りとなり、波乱まさに万丈ならんとするこの春最後のセンセーション、天馬天空にいなないて構想無類、表現鮮烈、いかなることにあいなりまするやは言わぬが花の吉野山。勧善懲悪すらも超越して展開する、異才頓才・唐沢なをきが贈る奇想天外、自由奔放、八面六臂、変態性欲の一大忍法絵巻!! これを読まなきゃ、死ねない死ねない、さあ死ねない。奇絶!!怪絶!!また壮絶!!!!


あ――っ
とばして読んでるっ


カスミ伝(全) (ビームコミックス文庫)

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正直上の文章打っただけでもう疲労困憊なんですが。上に載せたものはある話の冒頭で、まあそりゃ誰も読む訳ないんですけどね。そういうギャグです。その他にも、暗闇のなかにいるという設定でずっとベタゴマだったり、登場人物が5人いるのに全員潜水服で誰が誰だかわからない、しゃべったら雪崩が起きるので全部筆談・・・などなど。「実験的」の一言で片付けていいものなんだろうか。
でも、「ついていけるか不安」と思う人でも大丈夫!カスミがかわいいから!