平山夢明 「異常快楽殺人」

[ニューヨーク郊外、ウェスト・チェスターにある拙宅に来ると彼女は前庭にある花壇を見て大喜びし、早速花を摘みはじめました。私は、その隙に戸内に入ると全裸になって彼女を呼んだのです。花を抱えニコニコと入ってきた彼女は、私の姿を見ると狂ったように叫びはじめ、「ママに言いつけてやる!」と逃げ出そうとしました。困った私は彼女を捕まえると裸に剥き、口から漏れるゴボゴボという音が、聞こえなくなるまで首を絞めました]
[……手足と頭部を切り分けると、内臓を抜き去り、彼女をいくつもの小さなブロックに分けました。それから私は、しばらくの間、彼女を食べて暮らしていました。お宅のお嬢さんは九日間かかって私のお腹の中に消えたのです]
[お嬢さんの柔らかくて甘いお尻は、オーブンでトロトロと焼き上げると最高の味がすることをご存知だったでしょうか。また、お嬢さんの血は、ブリキ缶にあけ、すべて飲ませていただきました。味は絶品で、まさに天使のしずくとも言うべきものでした]




切断された皮膚や指などが床にばらまかれており、人骨がダンボールの箱に詰められている。細かく刻まれた腕がベッドの引き出しから見つかり、部屋の隅には腸の中身を出した人糞が、眼球や盲腸など不要な内臓と共に打ち捨てられており、ものすごい量の蝿がそれらにたかっていた。
ロブスターを捕る編み籠からは、塩水に浮かんだ男性性器が山と出てきた。キャビネットの奥からは、いったん茹でた後で、肉を削ぎ落としたと思われる五人分の頭蓋骨が見つかった。クローゼットの隅からは、もうふたつの頭蓋骨が発見され、棚からは腕が何本かぶら下げられていた。このふたつの頭蓋骨は模型のように灰色に塗装されていた。
キッチンを捜索した係官は、嘔吐と衝撃に耐えなければならなかった。
カウンターの一番上の引き出しには、汚い瓶とフライパンが押し込んであり、中には人肉の食べ残しがあった。スープ鍋の中にはトマトソースで煮た脳がふたつ、カリフラワーを丸ごと茹でたように浮かんでおり、別の鍋にも半分ほど煮溶けた手脚が入っていた。

異常快楽殺人 (角川ホラー文庫)

異常快楽殺人 (角川ホラー文庫)

登場した要素は、殺人・死体解体・強姦・屍姦・獣姦・スカトロ・食人・・・などなど、要目だけで既に危険です。特に最初と最後が読んでいて辛かった。これから本書を読もうとする方は、ぜひ胃をからっぽにしてから読み進めることをお勧めします。僕は最終章をトイレで読みました。
もちろん全章を通してグロテスクのオンパレードなのですが、同時に「殺人鬼」たちがどのような人生を歩んだ上で狂気に走ったのかが、実に克明に書かれています。アンドレイ・チカチロの項は、犠牲者の名前がしっかり実名で延々と記録されていて、読んでいて嫌になりましたけど。あとがきでのまとめが、本書をグロテスクだけではない、不思議な読後感を誘います。また、ノンフィクションではありますが、口調は後の平山氏の小説にしっかりと息づいているな、と感じました。