ジョージ秋山 「アシュラ」 下

わしはこの年まで生きてきた やっと生きてきた なんのために生きてきたのかわからん
わしは生まれてきたことになんのよろこびも感謝もしておらん
米ツブほどの真実も人間に見つけることができなかった わしはすべての人間をにくんでいる

おまえも人間だギャァ

そうだわしはわし自身をにくんでいる だが‥‥おまえの母親はひとを愛することにけんめいじゃった
あの女を殺したのは罪なことだ おまえの母親だぞ

ちがう
生むだけならだれでもできるギャ
なんで生んだギャァ
自分の母親に火の中へなげこまれ 食われそうになったギャ

なにっ
あ‥‥あわれじゃ

あいつが母親としてしたのはひとつだけだ 名まえをつけただけギャ
アシュラ

阿修羅
アシュラ

なんで なんで
なんで生んだギャ
なんで生んだギャァ
生まれてこないほうがよかったギャァ
うまれてこないほうがよかったギャア

おまえはこの苦しみを一生せおっていかねばならんのか‥‥ わしはすくわれぬ すくわれぬ罪をおかしてしまった
アシュラ すまぬ この父をゆるしてくれ

父じゃないギャ
おまえはただの男だギャ
おいっ散所太夫 あやまってすむことじゃないギャァ
なんでおれを生んだギャ なんで母をおいだしたギャ
おれはじぶんの子どもを食う女とおまえのあいだに生まれたギャ
どうしておれの母親はあんなんだギャ どうして父親はおまえなんだ
これを見ろ ひとりでいままで生きてきたんだギャ
母親に火の中へほうりこまれ どろ水をのみ 草を食べ 人肉を食って生きてきたギャァ
おまえはなんだ 女をだきながら酒をのみ 雨にうたれることもなく 風にふきさらされることもない家に住み
うまいもんを食ってくらしていたんだギャ
なにが なにが人間をにくむだ
おまえがいちばん悪いんだギャ
おれが母親を殺してなぜ悪いんだギャァ おれはなにをしてもいいんだギャ 悪くはないんだギャ

アシュラ (下) (幻冬舎文庫 (し-20-3))

アシュラ (下) (幻冬舎文庫 (し-20-3))

餓死寸前で目の前に人肉を出されたとき。
飢えを凌ぐために人肉を食うか。道徳に則って肉を見ず死んでいくか。
そしてその時、自分の境遇、親を呪うか。
こんな問題に答えなどあるはずもないし、実際にその時にならないと想像などまるでできないだろう。しかし、気になった人は是非本作を読んでみて欲しい。