平山夢明 「メルキオールの惨劇」

「おはよう」礫は少女に微笑んだ。
「ああ、どうも」少女は囁くような声で応えた。「なんか寒い……」
「腑が丸出しだから」礫は少女の首の下に手を入れると少し持ち上げた。
 裂かれた皮膚がパンタグラフのように捩れると月光で体内のクリップが星のように煌めいた。
「あ、カワイイ」光に気づいた少女が臓器の詰まった黒い穴を見つめていた。「夜の湖みたい」
「ほら、あまり無理をするとこの地球にいられる時間が少なくなる」礫は彼女を元の位置に戻した。
「こちらが12」礫は彼女に俺を紹介した。
「僕たちは、さっき紹介しあったんだ」礫は少女の髪を優しく撫でた。「この子はキキ」
「こんばんは」俺は軽く頭を下げた。
「12は人殺しなんだ。自分より弱い人間ばかりを狙って酷い目に遭わせるのが好きなんだよ」
「あら、人間の屑ね」

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

平山夢明という人にしてはグロさがかなり控えめで、「きれいな平山夢明」と言ってもいいかも。(あるいは僕はグロ描写に慣れすぎてしまったのか)
「独白するユニバーサル横メルカトル」「ミサイルマン」の短編のような雰囲気がある(同じ作者だから当たり前だけど)。これらの短編集では、こんな世界観を短編に惜しげもなく使うなんて!長編にして欲しい!と思ったものだが、それを長編にした感じ。
このころから最底辺のろくでなしを描くという特徴が現れている。読後感が悪くないというのも。自分としては、グロ描写に慣れすぎてしまった感があってあまり深く沈めなかったというのは惜しい。

とりあえずピーナッツバターが舐めたくなって、読み終わったあと買ってしまった。すっげー甘い。