ジョージ秋山 「銭ゲバ」 下

なにゆえわたしは胎から出て死ななかったのか!? 腹から出たとき息が絶えなかったのか!?
なにゆえ乳ぶさがあってわたしはそれを吸ったのか!?
そうしなかったらわたしは伏してやすみ眠ったであろう そうすれば安んじており
自分のために荒れ跡を築きなおした地の主たち、参議たち…… あるいは、こがねをもち、白金を家に満たしたきみたちと一諸にいたであろう!
なにゆえ、わたしはひとしれずおりる胎児のごとく 光を見ないみどりごのようでなかったか!?
かしこみては悪もあばれることをため 生みつがれた者もやすみを得…
捕らわれびとも共に安らかになり おい使う者の声をきかない。
ただ悩みのみが来る!わたしは安らかでなくおだやかでない! わたしはやすみを得ない ただ悩みのみが来る!




彼自身そんなことはありえないことをしっているが… 彼はどこかでそういう清く美しい世界にあこがれているんだ。
この社会がほんとに清く美しかったら… 彼は、銭ゲバは生まれなかっただろう。ただの蒲郡風太郎だけだ。
社会のせいにするわけではないが… 現実にこの社会が彼を生みだしたんだからねえ。
彼の中にある凶暴さは生まれつきのものとしてもだ…… もうひとつもっとも人間的な人間としての彼がいるのだ。
彼の悪、それは彼が人間的すぎるからだともいえる。
あまりにも人間的すぎるのかもしれない。動物的人間とでもいうかな。



銭ゲバ 下 (幻冬舎文庫 し 20-5)

銭ゲバ 下 (幻冬舎文庫 し 20-5)

上巻よりもさらに激しく蒲郡風太郎の葛藤が描かれている。この漫画、とにかく蒲郡だけを描いたカットが多い。映像的とも言える演出方法。それから2ページ見開きの使い方もすごい。
蒲郡の顔は怒りに燃えているようであり、しかし同時に泣いているようである。幼少時代の回想が何度も行われるが、特に終章のそれは心が痛い。
暗くあくどい主人公の漫画だが、ぜひ読んでほしい。展開が唐突だと思われる向きもいくつかあるかも知れないが、風太郎のアップが何コマも続くシーンについて、風太郎が何を考え、何に苦しめられているかを考えてみて欲しい。