京極夏彦 「魍魎の匣」

「な、何です?あれは……」
敦子が指差す。眩しさに目を細めて見る。そして私は警官隊の背後に、到底この世のものとは思えない威圧的なカタマリを認めた。

それは巨大な箱だった。

三階、いや四階建てのビルディング程は優にあろうと云う、巨大な箱だった。

建物には――大きさから考えて建物であることに間違いはないだろうが――しかし窓らしきものは一切なかった。正面の入口の上に、嵌め殺しの窓らしきスリットが縦に一列ついているだけである。後は圧倒的なコンクリートの黒い塊である。四角形、と云うより正方形、いや立方体か。
巨大な、真っ黒な立方体が、脅迫的な照明を浴びて夜空に浮かび上がっているのだ。
不吉だった。

魍魎の匣 (講談社ノベルス)

魍魎の匣 (講談社ノベルス)

読書難易度 ★★★★★★★★☆☆
「箱」度 ★★★★★★★★★★
総合 ★★★★★★☆☆☆☆


姑獲鳥の夏」に続く、百鬼夜行シリーズ第2弾。今作は「箱」がテーマになっており、あらゆるところに箱が登場し、また全てを繋ぐキーワードになっている。
読んだ感想としては、とにかく疲れた。長い!前作「姑獲鳥の夏」の厚さで既に辛かったのだが、今作は講談社ノベルスで700ページ弱というボリュームで、読書のスピードがすこぶる遅い僕としては致命的だった。解決編だけで短編2つ3つぐらいのボリュームがある。読んでいる最中もストーリーに没入するというよりは、「もう少し短く出来なかったのか」と思う気持ちが随分強くなってしまい大変だった。
それにしてもこの作品はいわゆる「ミステリ」になるのだろうか?確かに幻想小説ではないのだけど、解決編ではトリックの解明というよりは登場人物たちの絡みに絡み合った動機の解明だった。これをミステリの傑作と言われると、もう何がミステリで何がそうでないのかわからない。もっとも、北方謙三曰く「いまやね、何でもミステリなんですよ。時代小説、SF、ファンタジー、青春小説、何でもかんでもミステリなんです!」*1ということらしいから、まあいいんだろう。しかしこれはジャンル小説の定義としてはとってもずるい。w