木村紺 「神戸在住」 7巻

いきなり 呼吸が止まる
私の内側から 何かが胸をかきむしる
いくら服を着込んでも
私の心はいつだって 冬の風より凍えている
私は 笑っている
私は 笑っている
私は 笑っている
私は こんなに笑っているのに
心にはいつも 冴えざえとした 冷たい空洞を抱えている
朝 起きる
家を出て 電車に乗る
当然の顔で 講義を受ける
ひたすら字を追いかけ 書き写す
何ひとつ 頭には入ってこない
お昼休みは 友人達と過ごす
食欲は ずっとない
学校帰りの足取りは 決まって重い
何をした訳でもないのに 疲れ切っている
最近は 寄り道をする事もなくなった
家に 着く
食卓に 着く
機械的に食べ物を口へ運ぶ
まずくはない
おいしくもない
何もかもがただ 味気ない
食べるという作業そのものが つらい
無理に食べると 吐く
ずっとこんな事をしている
声をあげずに 吐ける様になった
私を気づかってくれる母にさえ
平気で嘘をつける
私は いびつな笑いで周囲を拒む
私と空気の間には 薄い皮膜がある
薄い薄い 誰にも見えない皮膜
その皮膜に包まれて 私は
いまだ血を流し続けている
胸の痛みに 耐えている

神戸在住(7) (アフタヌーンKC)

神戸在住(7) (アフタヌーンKC)

★★★★★★★★★☆

一般的に言って、「面白い漫画」というのは何度も読み返したいものであり、わくわくさせるようなものを言うのだろう。しかし「神戸在住」の62話から64話で表されている主人公の深い悲しみ、葛藤はつらく、何度読み返しても慣れるとかそういうものでもない。この漫画はファンタジー要素がひとつもなく、だからこそ他のファンタジー漫画で表される悲しみよりも、ずっと僕達のとなりにいつでも潜んでいるものだ。このエピソードを読むのはつらいけれど、普段はジャンプしか読まないという人にも、漫画はあまり読まないという人にも、ぜひ読んで欲しい。漫画だけど地の文があるという独特の構成を体感して欲しい。
つらいことがあったとき、いつもとは違うあの不安定な時間、その時僕たちは何を考え、行動しているのか?主人公の葛藤を客観的に覗き、そして決してずっと客観的ではいられず、つらい雰囲気に当てられていろんなことを考えた。