飛浩隆 「ラギッド・ガール 廃園の天使II」

 腕と、砂に。
 小さな打撃を感じた。
 指先を通して、たしかな魚信に似た、コツンという打撃。それが一閃した。小さな打撃をゲートに、その向こうの、広大な領域が垣間見えた。
 海だった。
 錯覚ではない。レトリックでもない。
 いまレオーシュがいる区界とはげしく交錯するようにして、どこかちがう世界がインポーズされた。ズナームカとは比較するのもおろかしい、圧倒的な南方の光。夏の空と海、熱く白い砂がレオーシュの境界を叩き割らんばかりの勢いで進入してきた。

夏の硝視体
ラギッド・ガール
クローゼット
魔述師
蜘蛛の王

購入から読了まで2年半もかかってしまいました。
相変わらず幻想的な「区界」の表現力はすさまじいです。「夏の硝視体」でのまばゆいばかりの白い町並と暑さ、「魔述師」での中世のような街、「蜘蛛の王」では巨大な樹の世界・・・ワクワク感が半端ない。間違いなくSFに属する本書ですが、ファンタジー好きな方もきっと楽しめると思います。
「グラン・ヴァカンス」でのジュリーとジュールのように、本書でも少年と少女の1対1という構図がいくつかあります。みんなどうしてこんなにかっこいいんでしょう。読んでいてありありと頭の中に情景が浮かぶので、映像化したらさぞ素晴らしいだろうなと思いつつ、絶対に不可能だし、もしできてもがっかり全開だと思うので、読書というのはやめられないなぁ。