「NOVA 2」

3月某日 曇り
 新宿で拾ったビラを日本人に見せると、誰もが口ごもって目を逸らす。
 カナコはかなり率直なほうだが、外でその話はしないほうがいいわよ、とそっけなく言った。それにしても、日本の友人たちは私の質問に対してまるで一緒に練習していたみたいに同じような反応をし(顔に不透明な膜が張ったようになる)、そこから先に進もうとするとやんわりと言葉を濁す。そのラインはいつも同じところにあり、私には見えないラインが彼らには見えるらしい。「ノレンに腕押し」な気分になるが、かつて読んだマクミランの『世界比較文化事典』の一節が今も立派に通用すると知ってなぜか笑い出したくなってしまうのだ。それはこうだ……今も暗誦できる。「…日本語は複雑で微妙なニュアンスをもち、丁寧さの度合いによって少なくとも4段階の言い換えが可能。…コミュニケーションには間接的な表現や言葉にならないニュアンスが多く含まれているが、日本人同士はそれを完璧に理解する。…日本人は絶妙にコントロールされた集団的思考を持つ国民なのである」
 日本にはみんなを黙らせるとても便利な言葉があるわ、とカナコは冷ややかに言っていた。
 その魔法の言葉は「自粛」だそうである。

神林長平「かくも無数の悲鳴」
小路幸也レンズマンの子供」
法月綸太郎「バベルの牢獄」
倉田タカシ「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」
恩田陸「東京の日記」
田辺青蛙「てのひら宇宙譚」
曽根圭介「衝突」
東浩紀クリュセの魚」
新城カズマ「マトリカレント」
津原泰水「五色の舟」
宮部みゆき「聖痕」
西崎憲「行列」

★★★★★★★☆☆☆

恩田陸「東京の日記」がダントツでマイベスト。とにかくタイムリーすぎるので早く読むべき。とても「震災」前に書かれたとは思えないほど奇妙で不気味な合致であり、そこに書かれた東京の人たち、日本人の行動がよく描かれている。そして僕たちはすでに現実でそれを見てしまっているので、本当の日記みたいに読んだ。
長い時間をかけて読んだので正直前半部は印象が薄い。「かくも無数の悲鳴」は面白かったな。
「NOVA 1」と同様に、ある程度長めの作品が後ろの方に配されているのが少し苦手。前半のやつわからなくなっちゃう。